「日本防衛の大戦略 〜富国強兵からゴルディロックス・コンセンサスまで」 書評
邦題「日本防衛の大戦略 〜富国強兵からゴルディロックス・コンセンサスまで」
原題は "Securing Japan: Tokyo's Grand Strategy and the Future of East Asia"
(日本の安全保障:東京の大戦略と東アジアの未来)
"Tokyo" は、要するに「永田町や霞ヶ関」のことだろう。
選挙前のこういう時期だからというわけではないが、こういう本を読んだ。
読んだ後で調べてみると、ネット上の書評は意外と少なくamazonのカスタマーレビューすら無いので、素人ながらにネット上の書評を増やしてみる。
著者のリチャード・J・サミュエルズ氏は米国の政治学者。
専門は日本の政治経済と安全保障政策。
(wikipedia)(MIT Political Science Department :: Richard J. Samuels)
この本でサミュエルズ氏は、日本の防衛戦略には明治の頃からの大戦略があり、今は4回目の大きな転換点にいる、という分析をしている。
17世紀以来、日本はオランダ、イギリス、ドイツ、アメリカという具合に世界の覇者である国と順々に同盟関係を結んできた。
しかし、その覇者に無条件に従ってきたわけではない。
日本はその行為に常にヘッジをかけていた。
そのヘッジは経済的リスクと軍事的リスクを分離するものだった。
明治日本の「富国強兵」、帝国日本の「大東亜共栄圏」、WW2後の民主国家・日本安乗り論(吉田ドクトリン)と続いてきたと指摘し、今、政治経済でのアメリカの弱体化と中国の台頭が起こっているなかで、これからの日本の安全保障戦略は、著者がゴルディロックス・コンセンサスと名付けた、極端に強硬でなく極端に軟弱でもない アジアにも欧米にも寄りすぎない 二重にヘッジをかけた戦略だろう、と書いている。

原著:"Securing Japan: Tokyo's Grand Strategy and the Future of East Asia"
自衛隊隊員。背景は富士山。
近代史については入試の丸暗記以上は大して教わってこなかったので、日本近代〜現代の安全保障について体系的に講義を受けた感じで「なるほど」とすっきりとした読後感を持った。
その反面、ちょっと読みにくく、講義中に何度か居眠りをしつつやっと終えた感じ。
この分野は、すぐ極端な意見が出たり失言が出たり、反論が感情的だったりあるいは自虐的だったりとあまり興味が沸かなかった。せいぜいニュースか雑誌の特集記事を読むくらい。
負の遺産を背負って時流に流されていたと感じていたが、実はその水面下には日本の安全保障戦略が大きな海流としてうねっている、という説は興味深い。
日本国内からの視点と海外からの視点は違うのだな、と思ったり、ちょっと違うんじゃない?、と思いつつもそういう戦略があるという海外の視点でニュースを見るのは面白いだろう。
少なくともそういう視点を知るだけでも、この表面を漂う自虐的雰囲気を振り払うには有益だと思う。
ただ、このサミュエルズ氏自身が別の記事「ニューズウィーク国際版(2009年4月22日号)」でこの自説の成立に懸念を示している。
「日本はこのままでもやっていけるかもしれない。だが、中国が発言力を強め、米中の関係改善が進む中、経済的にも政治的にもその影響力が弱まる一方だろう」と警鐘を鳴らす。日本が「ゴルディロックス・コンセンサス」を実現するミドル・パワー(中程度の影響力を持つ国)として生き残るにも、リーダーシップが全く不足していると指摘する。
余談だが、サミュエルズ氏は海上保安庁に注目しているようだ。
この本にも書かれているし、「【「“New Fighting Power!” Japan’s Growing Capabilities and East Asian Security 」(「『新たな戦力!』日本の増強される海上能力と東アジア安全保障」)」に触れられている。
2000年には海上保安庁の英語名称が「Japan Coast Guard」と変更された。
周囲を海に囲まれた日本にとって国境警備隊=沿岸警備隊だと思うので方向性がしっかりしてきた感じがする。
(補足:8/11)
選挙関係の話をふるなら、
民主党・小沢氏が党を割って民主党をなぜ作りその後、どのような対応をしてきたか、安全保障の視点から説明をしようとしている。
恥ずかしながら、海外から日本の政局や政変はそういう視点で見られているとは到底思い当たらなかった。
メモ:
"ゴルディロックス" は童話の「ゴルディロックスと3匹のくま」に出てくる少女の名前。(3びきのくま - Wikipedia)
彼女が、熱すぎず冷めすぎていないスープを好むシーンがあるところから、ゴルディロックス経済 ("just-right" economy) =適温経済と使われることもある。
<目次>
はじめに
第1部 歴史的背景
第一章 日本の大戦略―イデオロギーの点を結ぶ
第二章 平和主義の基板をつくる
第2部 流動する世界
第三章 変化のための変化
第四章 吉田ドクトリンはどこへ
第五章 言 説
第3部 脅威と対応
第六章 日本の脅威環境
第七章 脅威対応する(そして脅威をつくる)
終 章 進化する日本の大戦略
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