「十字軍物語 1」塩野七生 著 読んでみた
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序章「絵で見る十字軍物語」に続く、十字軍物語の2冊目。書評。
法王ウルバン2世のクレルモン教会会議での呼びかけ前後から、第一次十字軍の戦いとイェルサレムの解放、十字軍国家設立。1118年のイェルサレム王ボードワンの死。
著者が第一世代と呼ぶ諸侯の話。
「絵で見る十字軍物語」のギュスターヴ・ドレの重い内容の版画をイメージしていたので、最初はちょっと構えていたけれども、結局、戦記とその他の物語として面白く読むことができた。
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「絵で見る十字軍物語」のギュスターヴ・ドレの版画と見比べてみると、隠者ピエールによる「貧者の十字軍」の扱いが驚くほど小さい。
「貧者の十字軍は、法王の思惑を外れて組織され、コンスタンティノープルに着くもビザンチン皇帝も扱いに困り、早々に厄介払いをされ小アジアで惨敗。」 ほぼこれだけ。
宗教については「絵で見る十字軍物語」の版画に任せましたと言わんばかりに、本書では宗教な部分は抑えられている。
聖槍(ロンギヌスの槍)の発見(捏造?)や、エルサレムの包囲から解放のあたりでは比較的多く触れられているが、エルサレム 解放後の聖なる十字架の扱いは小さい。
本書での著者の興味は、第一次十字軍に参加した貴族諸侯の関係や対立、行動を描くことに向けられている。
内部の対立はイスラム側のスルタンたちも同じだが、「十字軍は諸侯の諍いはあっても最終目的のために団結した点がイスラム側とは違った」のだそうだ。
この巻末の言葉も次作に繋げるための予告編の台詞と思えるくらい、そんなに最終目的のために団結してたっけ?という読後感。
十字軍の中では比較的に宗教的情熱が強かったと言われる第一次十字軍なのに、この先、どうなるのだろうか?
どのようにカトリック教会と十字軍が運命共同体となっていくのか、現在に繋がる二大宗教の対立の構図をどう物語るのか、期待したい。
塩野氏の著作は読みやすく面白いけれども、登場する歴史上の人物は、あくまでも塩野氏が様々な文献を読んだ結果抱いたキャラクター像。塩野氏本人も、歴史小説ではなく歴史エッセイ(個人的観点から物事を論じた散文)と言っている(参照)。
タンクレディ(ガリラヤ公)の扱いが、アラン・ドロン主演の映画「山猫」を持ち出したり、諸侯とはちょっと違って格好良く書かれているように感じられたが、それもイタリア在住だからかもしれない。
メモ
ロレーヌ公ゴドフロア・ド・ブイヨンをゴドフロアと書いているように、他の諸侯も名前が書かれている。
しかし、トゥールーズ伯レーモン4世(レーモン・ド・サン・ジル)だけは、名前ではなく、その領地から、サンジルと書いている。なぜかは不明。
「絵で見る十字軍物語」のまえがきによると、「十字軍物語」全4巻は、前作「ローマ亡き後の地中海世界」上下巻と対になっているようだ。
塩野氏曰く、中世についてやりたいと思う切り口は二つあって(参照)、
「ローマ亡き後の地中海世界」は、『海賊』という切り口で、南ヨーロッパのキリスト教世界と北アフリカのイスラム世界の対決を描いた。
「十字軍物語」は、『聖戦』という切り口で、北ヨーロッパのキリスト教世界と中近東のイスラム世界の対立を描いている。
次巻刊行までの合間に前作も読んでみるのも面白いだろう。
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