「生き残る判断 生き残れない行動」を読んで、東日本大震災の例と一緒に考えてみた(2/2)
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「生き残る判断 生き残れない行動」
副題:大災害・テロの生存者たちの証言で判明
原題:"The Unthinkable ~Who survives when disaster strikes --- and why~"
長かったので分割しましたの2/2。
「災害の時には、脳は自分が思うほど働かない」
本書では、米国同時多発テロ(以下、9・11)やハリケーン・カトリーナによる洪水、北海でのエストニア号の沈没、ナイトクラブの火災事故や銃撃事件 など、突然の災害や事故、事件での生存者たちへの直接のインタビューを通して、彼らがどのように感じ、考え、行動して生き残ったか解き明かしている。
それらから分かったのは、どんな種類の災害に遭っても人々は似た地点からスタートし3つの行程を通ること。
まず現状を「否認」する。次にショックから回復する過程で「思考」をして、生き残るための「行動」をする。
前半:「生き残る判断 生き残れない行動」を読んで、東日本大震災の例と一緒に考えてみた(1/2)
「災害の時には、脳は自分が思うほど働かない」
「災害の時は、リスクを正常に判断することが出来なくなる。」
何一つとして正常ではない時には、平時とは異なった考え方や受け取り方をする。
災害時の非常に強いストレス下では、その現実を「否認」するために、自分の経験から考えられる「筋の通った説明をするためのストーリーを作る」ことがある。
9・11で、ワールド・トレード・センターの北タワーに居た一人の女性は、
一機目の衝突を知って、「パイロットが心臓発作か脳卒中を起こしてしまったんだわ。」と考えたそうだ。
二機目の衝突の音は覚えておらず、これは過度のストレスを受けたことによる「解離」の状態だったと推測されている。
そして他の人から、二機目の衝突が起きていたことを聞いた時、驚いた事に、「何て馬鹿な人たちだろう。競争をしていたんだわ。」と、到底有り得ないストーリーを考えていたと話している。
それは彼女の知識や経験から考えられる、最も筋の通った説明だったのだろう。
普段なら「そんな馬鹿な事は起こるはずはないわ」と理性的に考えなおすのだろうが、災害時には自分が思うように脳みそは働いてはくれない。
その後、彼女が避難をしている途中で、二機目が衝突するまで時間が空いていた事を他の人から聞き、「意図的にやったんだわ!」と事実に近い事を自分で口にしている。・・・にも関わらず、それをまるで思いつかなかったことのように「否認」し、頭から追いやって無視をしたそうだ。
WTCから避難するまでに、さらに不条理な怒りがわき起こったり、災害はビルの中だけでしか起こっていないと考えていたと話している。
東日本大震災でも、
現地にいた被災者の言葉なのに、常識的に考えると首を傾げたくなるような例がいくつもあった。
一つは、その町に居るはずのない中国の救助隊が略奪行為をしたというものだ。(参照)
(中国救助隊が遺体の写真を撮影し公開しているという話は、現地にいない人によるデマだと確認されている。参照)
中国からの緊急救助隊は来日後、自衛隊機で移動をし岩手県大船渡市で活動をしていたが、宮城県の被災地で略奪行為をしているという被災者の言葉があった。
災害直後の数日は被災地への支援が届かず、商店の食料品や物品等の略奪行為があったそうだ(参照)。
生きるためだったとはいえ、同じ町の住人の行動を「否認」したいという心の働きから「よそ者が略奪」「〜が略奪」というストーリーを作ってしまったのではないだろうか。
あるいは、携帯電話やインターネットを通じて伝え聞いた被災地の外の噂やデマを、正常に判断出来ないまま、その情報も交えた「筋の通った説明とするために」言ってしまったのかもしれない。
また、俳優の辰巳琢郎氏がブログで「避難所にいるのに、食糧がなく、子供が餓死してるんですよ。」と被災者に直接に聞いた言葉を載せている(参照)。
「避難所で子供が餓死」というセンセーショナルな表現が一人歩きした結果、他の被災地の避難所でも起こっているかのように誤解されデマ化していったので、覚えている人も多いのではないだろうか。(辰巳氏は、その後の記事で訂正と補足をしている。参照)
もしかするとこの場合も、津波から必死に逃げて避難してきたのに救援が間に合わず、避難場所で子供が亡くなっている事実(重症を負っていたり低体温症が原因?)を納得出来ずに、避難所で食料が足りない事実とストレートに繋げてしまって「餓死」という言い方となったのかもしれない。
被災者の生の言葉を疑うことを奨めているわけではない。しかし、災害直後の非常に強いストレス環境下にも関わらず「被災者の言葉だから100%真実だ」と頭から信じきってしまうことは、本当に適切かどうか、考える材料になるのではないだろうか。
その他、本書では、
恐怖に対する反応をいかにして抑え込むか。
恐怖に負けないよう脳味噌を鍛えられるのか。
パニック。将棋倒しの「物理学」。
非常時に回復力がある人は、どのような人なのか。
特殊部隊の隊員は生化学的に根本から違っている。
等々、
ひとつの記事では紹介できない量が載っている。視野狭窄は「思考」の段階に含まれるが、「否認」の部分を中心に据えて書いてみた。
メモ
非常時になったら、アドレナリンが噴き出して、俺様BGMが鳴り響き、オレはやるぜ、オラオラオラオラーッと活躍をするぜ、と無邪気に思っていても、実のところそのための訓練を十二分に積んでいなければ、自分が考えているほど脳も体も働いてはくれない (´・ω・`)ショボーン
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コメント
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リンクさせていただきました。
事後報告ですみません。
★読みたい本が見つかりました。
ありがとうございました。
(任意)に甘えました。^^;
投稿: | 2011年5月10日 (火) 23時20分