中国の有人深海潜水艇「蛟竜号」で起きていたトラブル
wikimedia commons
(追記2012/3/13)
・タイトルの修正と、その原因と理由
元のタイトルは「中国の有人深海潜水艇「蛟竜号」で起きていたトラブルと、画像処理された?写真」でした。
2011年の一連の蛟竜号の記事は、潜水試験をリアルタイムでチェックしていて、かなりワクワクしながら書いていました。ただ、中国高速鉄道の脱線衝突事故の直後だったこともあり、中国当局やメディアの情報隠蔽を気にしすぎていたきらいがあります。
蛟竜号のニュースがあると、当ブログの蛟竜号関係の記事へのアクセス数が増えていますし、今年6-7月に予定されている水深7000m潜水試験に向けて、さらに増えると予想されます。
変な誤解を広めないために、タイトルを修正しました。
この記事の内容は「ちょっと考えすぎて、変な方向に潜ってって深みに嵌ってるよ」と、生暖かい目でご笑覧いただければ幸いです。
(追記ここまで)
中国の有人潜水艇「蛟竜号」が26日、水深5057メートルの潜水に成功した。
新華社電によると、乗組員3人を乗せた中国の有人潜水調査船「蛟竜号」が26日、太平洋で水深5057メートルの潜水に成功した。中国メディアは調査船が「初めての自主設計」であると強調し、潜水の成功を大々的に報道している。
7月1日の母船「向阳红09」の出港の頃からアンテナ向けていたら、今回の潜水試験でちょっと意外な写真に気が付いた。
また、水深4027mまで潜った21日の第一次潜水試験の際にちょっと目立つトラブルがあったようだが、詳しい報道はされていないようだ。
それらについて、ツイッターでつぶやきながらちょこちょこ調べていたことのまとめ。メモ。
追加記事まとめ:「中国の有人深海探査艇「蛟竜号」関係の記事、まとめ」
蛟竜号については、新浪網の特設サイト「蛟龙号5000米载人深潜」が詳しくニュースのアップデートも早い。
そこのタイトル画像の右側、海面から吊り上げられている蛟竜号の写真は、今回の潜水試験航海のものではない。2010年8月に南シナ海で水深3759mまで潜水し、海底に中国国旗(五星紅旗)を置いた時のものだろう。この時は、蛟龍号の甲板の後ろの方に四角いパーツが付いている(参照)。
蛟竜号の「五星紅旗」と「蛟龙」のロゴに注目。
今回の潜水試験について、中新網(chinanews.com)の写真を中心に追いかけてみよう。
今回(2011年7月)
第一次潜水試験(7月21日)・入水時
入水する時は、「五星紅旗」と「蛟龙」のロゴのどちらもきれいだ。
第一次潜水試験(7月21日)・出水時
出水する時には、「蛟龙」のロゴの「龙」の部分の塗料が大きく剥がれている。
よく見ると、その上にある、ヤマザキの甘食のような形の象牙色のパーツ、その下のあたりも塗料が少し剥がれている。
そして、なぜか「五星紅旗」は隠されているない。
メインハッチの外側部分も、開きかけているのか、隙間が空いている。
この写真は中新網だけでなく、人民网も含めて多くの中国メディアで使われている。(動画(1:00あたり))
何があったんだろう?
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今回の潜航試験では、第一次潜水試験前にバッテリーからの液漏れ(参照)や、第二次潜水試験の前に着水揚収装置のトラブル(参照)が起こっている。過去の潜水試験ではメインバッテリーの爆発事故も起こっている(参照)。
潜水試験なので、装備や運用の弱点が洗い出されることは悪いことではない。しかし、これについては何かトラブルがあったことは分かるが、
据介绍,21日第一次海试成功返回后,“蛟龙”号出现了少许故障。现场专家全力以赴排除故障,目前已完全解决。
報告によると、21日の第一次潜水試験の成功の後、“蛟竜”号に少しばかり故障があった。現場の専門家が全力で故障を取り除き、これまでに完全に解決した。“蛟龙”号海试现场:25日天气才有可能好转——中新网
という記事くらいで、詳しい報道は見つけられなかった。
外装を外した構造材むき出し状態の動画を見ると、その部分は浮力材でもただの外壁でもなく、円筒形の大きな構造だということがわかる。
「蛟竜号」は「しんかい6500」と違って1ヵ所で吊る構造なので、そのための構造材の一部なのだろう。
表面がペロッと剥がれた感じで凹みや傷などは特に見あたらないので、多分、太平洋の水深4000mの高圧・低温環境で塗装(何かのコーティング?)に起きたトラブルだと思うけれども、写真で目立つのに報道に出て来ないから、深海底で姿勢制御に失敗して擦ったとか、言及したくないほど重大なトラブルだったんじゃないかとか、変に勘ぐってしまう。
(追記2011/07/28)
第三次潜水試験の映像から、右舷の同じ部分も塗装またはコーティングが広く剥げていたことが確認できました。
参照:28日(第三次潜水試験)の中国の有人深海潜水艇「蛟竜号」
(追記ここまで)
(追記2011/09/08)
無人潜水探査艇「かいこう」でも、試験潜行時に、チタンに塗った塗料が剥がれたことがあったと教えていただきました。深海の圧力、恐るべし。
(追記ここまで)
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第二次潜水試験(7月26日)・入水時
26日の第二次潜航試験の、入水する時は、塗料の剥がれた部分は塗り直し、その後ろに「龙」の文字を書き足している。同じ色の塗料が船内になかったのだろうか、微妙に色が違う。
画像が小さくて分かりにくいが、その上の甘食パーツの下の部分も塗り直してある。
「五星紅旗」もある。
第二次潜水試験・出水時
そして出水する時には、なぜか、五星紅旗が消されているない。
海面に浮上した蛟龙号に着水揚収装置のケーブルを接続するゴムボートの作業員が、事故の危険を冒してまで五星紅旗の上に何か貼りつけたとはちょっと考えにくい。
第一次試験では7時48分に海面に浮上し8時には母艦の甲板に回収(参照)、8時20分には“蛟龙”号搭乗員が外に出ている(参照)ので、一旦船上に揚げてから何か貼って再び海面に下ろしてわざわざ撮影したのでも無さそうだ。
国旗だけを白く塗ってしまう謎の海洋生物が深海底にいるとも思えない(笑)
あとは、撮影後に画像処理をした可能性が考えられる。
五星紅旗が無い画像は人民網も掲載しているので、中国共産党も認めている処理なのだろう。
しかし中国が、自国の科学技術の大きな成果のニュースで国旗を表示させないのは、何か違和感を感じる。
何かそれ以上の深い意図があるのかもしれない。
もし画像処理をしているなら、今回の潜水試験は前回の南シナ海とは違って、政治的意図はない(本音はどうであれ)とアピールしようとしているのではないだろうか。
深海潜水艇開発や公海での潜航試験は、深海底や海洋生物などの科学的調査と資源調査の平和的利用が目的だと(建前上は)主張しやすそうだ。
全ての写真でマスキングしないと意味がないとも思うが、国内的に国威を高揚する為に国旗は必要だろうし、その辺りはあまり考えていないような気がする。
「他の部分や、他の写真も何か画像処理されているんじゃない?」といった疑惑が出てくる可能性もあるが、その辺りもあまり考えていないような気もする。
(追記修正20110802)
写真を画像処理してマスキングしたものではない事が確認出来る映像を見つけました。第二次潜航試験から帰還した後のもの。
[視頻]“蛟龍”號成功突破5000米 創造中國載人深潛新歷史(3分45秒あたり)
すると、逆に入水時の蛟竜号についている五星紅旗が画像処理して付け加えられたもの???
それとも本当に、深海に行くと剥がれたり消えたりする仕様になっているとか???
何が何やら・・・
(追記ここまで)
もっとも・・・、
「自主設計」の潜水艇なのだそうだから、もしかするとスイッチひとつで外装の紅い国旗を白くしてしまう中国の「自主技術」が使われているのかもしれないが(笑)
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個人的には、どこの国であれ、海洋科学が進歩すること自体は歓迎している。
ライバルが増えることで競争意識や危機感が高まって、日本の海洋科学や技術開発の予算もレベルも引き上げられることを期待している。
中国高速鉄道の中国新幹線のように、成果を重視しすぎて安全を軽視して無理して事故が起こらなければいいんだが・・・
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コメント
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国旗をいちいち直接描くとは思えないので、普通にステッカーが剥がれただけに見えます。
投稿: dodo | 2012年3月 3日 (土) 11時05分
dodoさま
コメントをありがとうございます。
多分、そうでしょう。
試験潜航をリアルタイムでwktkしながら見てたので、後の記事で書いてますが、泥縄な調べ方で、ちょっと考えすぎた記事になってしまいました。
しんかい6500やノチールにも国旗はありませんし、ミール1でも付いてない事の方が多いです。
中国としては、国家の威信をかけた潜水試験なので、資料や報道写真に国旗付きで載せたいけれど、海底に国旗をたてた南シナ海とは違って公海での運用なので、国連海洋法条約的にも言い訳が出来るようにしたい。
そこで、途中で剥がれるようにしたのだと考えています。
ただ、それだと国旗の部分が違う色の白色になっている理由がない。
なので、もともと国旗は書かれていて、上の理由で隠すために白く塗って、その上に国旗を貼った、そういう事を考えてます。
投稿: メモ主 | 2012年3月 3日 (土) 13時26分