マルクール核廃棄物処理施設の爆発事故、その後。 鉛の棺は誤解?
フランス、マルクール核廃棄物処理施設での、9月12日の爆発事故のその後。
9月後半になって、処理をしていた放射性廃棄物は4㌧の金属で63,000Bq(67,000Bq?)と公に言っていたのが、電気炉内にはその500倍近い(480倍とも)3千万Bqが存在していたと報道された。(参照)
必ずしも最初の発表数値が嘘で500倍の放射性廃棄物を処理していたというわけではなく、電気炉内にそれだけ存在していたということらしい。炉自体とか炉の内側のクズとか色々考えられるけれども、詳細は不明。
フランス当局は充分な情報開示をしていないと思うので、非常に不満を感じている。
福島第一原発事故の後にも関わらず、この対応はあまりプラスにはならないのではないだろうか。
せめて詳細な事故原因と経過、室内の写真などを公開して欲しいものだ。
また、フランスの反原発団体のレポートでは、死亡したスペイン国籍の作業員は密閉された鉛の棺に入れられて埋葬された、と書いている(参照)。
真実は霧の向こうだが、ただ、この「鉛の棺」というのは「誤解」じゃない?、と、事故後1ヶ月弱の一連の関連ツイートのまとめも兼ねて、ちょっと重箱の隅な事を調べてみた。
調べていたら、フランスの葬儀サービスとか脇道が色々と面白い (; ´Д`)
「鉛の棺」というと、鉛が主な素材の棺をイメージしそうだ。
もし鉛製の棺が作られたら、埋葬にはクレーン車が必要で隠すことは難しく、間違いなく話題となるだろう。
鉛で遮蔽をするほどに遺体と体内の破片の放射線が強かったとしたら、鉛の厚さもそれなりに厚くする必要がある。たて横200cm×200cmで厚さ1cmの鉛で450kgほど。厚さ0.5cmでも225kg。
放射線遮蔽用の鉛ガラスで考えてみても、2m×1mで80〜100kg前後(参照)あるから、棺では2枚分(160〜200kg)は使うだろう。
やはりクレーン車が必要となりそうだ。
そんな棺を教会の墓地に埋葬しようとしたら、疑惑の目と反対を言う口があるだろうし、監視団体の耳もある。もし当局が二枚舌で騙して埋めたとしても、後日に掘り返して放射線測定をすることが求められるだろう。
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フランスでは葬儀は福祉の一環であり公共サービスの意味合いが強いため、葬儀サービスに関して非常に厳しい規定がある。
(参照:世界各地のお葬式 - フランス)(その他の参照リンクは末尾に)
葬儀で使われる、カバーや棺、内装や外装のアクセサリー、骨壺などについても "Article L2223-19" で規定されている。
4º La fourniture des housses, des cercueils et de leurs accessoires intérieurs et extérieurs ainsi que des urnes cinéraires ;
葬儀サービス :フランスの公式法情報サイトLégifrance
この条文の詳細が見つけられなかった(何度も改正してるし、慣れない・・・)が、フランス語版WIkipediaの「Cercueil(棺)」の項目に "Article L2223-19"に関して興味深い記述があった。適当な日本語訳ですが、抄訳。
Lors d'un transport de corps effectué en cercueil à l'extérieur de la commune de fermeture du cercueil, un policier vient vérifier l'identité du défunt, et après fermeture du cercueil, il appose des scellés sur les vis de tête et de pied.
Pour un séjour en caveau provisoire, un transfert à l'étranger, un transport aérien ou le décès après certaines maladies : le cercueil doit être équipé d'une enveloppe intérieure métallique étanche soudée appelée « zinc » (autrefois dans un alliage de plomb et d'étain). L'incinération de ce type de cercueil peut être source de pollution, de même que lorsque le cercueil contient des corps ayant fait l'objet de certains traitement de thanatopraxie (autrefois le corps était traité par des injections de mercurochrome).
D'après certaines légendes, les vampires dorment le jour dans des cercueils, pour se protéger de la lumière du Soleil.
遺体の入った棺を市外へ運び出す時は、警察官が遺体の身元を確認した後に棺の頭側と足側を釘で密閉をする。
国外に運ぶ場合、飛行機で運ぶ場合、または特定の病気により死亡した場合の一時的な保管について: 棺の内側は、溶接し防水処理した≪亜鉛≫(鉛とスズの合金)で被い、密閉しなければならない。
防腐処理をされた遺体(昔はマーキュロクロムで処置していた)の火葬は、大気汚染の原因となる可能性がある。
伝説によると、吸血鬼は太陽の光から身を守るために日中は棺の中で眠る。
日本人からするととても厳しく感じられる。
特定の病気とは感染症か何かだろうか。ペスト(黒死病)の発生と吸血鬼伝説の報告例は重なると言われているから、不安感から密閉したくなるのも分かる気がする。
放射能に関わる事故の死者の葬儀についても規定があり、棺の内装についてもきっちりと規定されていても不思議はなさそうだ。
(追記2011/10/08)ちなみに、カトリックの教皇の遺体は、三重の棺に納められ、二番目の棺は5ミリの厚さの鉛だそうだ。(参照:教皇の遺体を納める棺 - カトリック中央協議会)
実は、マルクールの爆発事故の被害者の棺には特別な対策は何もなく、
特定の病気による死者と同じ対応(お役所仕事)で、亜鉛(鉛とスズの合金)で内張りして密閉した棺だったが、情報提供者や記者がその規定を知らずに、「鉛が入っている!」「密閉している!」、「これは、放射線対策だ!!!」と勘違いした・・・
ということは、無い、か・・・?(笑)
(追記2011/10/08)
twitterで教えてもらった、Le Dauphine紙の記事「Le fondeur enterré dans un cercueil antiradioactif」によると、さすがに勘違いはなさそう(苦笑)
測定値は低く数フィートの距離で8.5μSvだそうだ。遺体内にあるという破片が線源?
事故原因にも触れているが、疑問符が多い文章となっている。
(追記ここまで)
最初に報道した、スペインのプブリコ紙(Publico)紙の9月18日の記事「París tapa el origen radiactivo del accidente de Marcoule」では、教会に埋葬された棺は、密閉され、そして内側を低レベル放射性物質防護(protección antirradiactiva ligera)と書かれている。勘違いかどうかは分からない(笑)(*1)
事故が起きた電気炉では、低レベル放射性廃棄物の金属を溶かし、その後に再加工をするのだそうだ。
炉内の金属の量が4トン(最小値)で、放射能濃度が後に報道された3千万ベクレル(最大値)とすると最大7500ベクレル/キログラムとなる。
記事には「溶融した金属片が遺体の内部にある」と書かれている。仮に1kgの金属が遺体内部にあるとすると、最大でも、元々の人体に含まれる6000〜7000ベクレルの2倍ほど。
核種にもよるが、(ご遺族には失礼な表現だが)低レベル放射性廃棄物(クリアランスレベル?)の地中埋設処理で求められる程度の容器(棺)の耐久性、放射線遮蔽性と耐食性、特に地下水の侵入と漏洩・拡散を防ぐための密閉処理と考えるのが妥当ではないだろうか。
激重な鉛の棺をイメージするよりは、まだ納得できるかな (´・ω・`)
(*1)スペイン語の「antirradiactiva」は、「放射能」や「放射線」でなく「放射性物質」を組み合わせるのが適切だろう。英語の「radioactive」は「radioactive materials」の略語としても使われる。
(追記2011/10/11)
訳文で、遺体に「弾頭」「榴弾砲 」または「弾頭の破片」と書かれている単語について。
マルクール原子力地区の爆発事故報道と誤訳 - Togetter
「破片」と訳した方が適切で、日本語で「弾頭」(類似語含む)と使われているのは、スペイン語の英訳を日本語訳して伝言ゲームになった結果だろうと書かれています。
(追記ここまで)
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「鉛の棺」という表現は、好意的に見るなら、伝言ゲームの結果と感じられる。
関連情報は、比較的に頻繁に追いかけていた(一連の記事も報道後の早い時期に確認してツイートしている)けれども、「鉛の棺」と確定した報道は見かけなかった。
それほどの重大情報なら多くツイート、リツイートされ、引用されているだろう。
念のため「marcoule coffin」など簡単なキーワードでいくらか検索してみたがスペインのプブリコ紙がソースの記事ばかりだった。
フランスの反原発ネットワーク(Réseau Sortir du nucléaire)のレポートも、その棺の部分は、スペインのプブリコ紙(Publico)紙の9月18日の記事が大本のソースのようだ。
しかし、遺体内部に金属片がある事は重要なのにレポートでは触れられていない。情報を取捨選択したというよりも、それに触れていない二次情報の、Rue98紙など仏メディアの引用記事を元にしたのではないだろうか。
Google検索してみたところ、この"sortirdunucleaire.org"のサイトで事故後に "Cercueil"(棺)という単語が出る記事は今回のレポートの1本だけ。
プブリコ紙の記事では、Chusclanの教会に埋葬された棺は、密閉され、そして内側は "protección antirradiactiva ligera"(低レベル放射性物質防護)されていると書かれている。
Y, por último, confirmaron igualmente que el ataúd que fue entregado a la familia, y que fue velado en la iglesia de Chusclan desde el viernes, iba sellado y con una "protección antirradiactiva ligera" en su interior.
この"protección antirradiactiva ligera"(低レベル放射性物質防護)という表現は、Rue98紙も記事「Nucléaire : les "trois secrets" de l'accident de Marcoule」でも「低レベル放射性物質防護が備えられている」という言い回しで使われている。しかし、Rue98日本語版の記事「核再処理施設マルクールの事故、3つの謎」では「棺には<低レベル放射能防護板>が施されていた事が確認された。」と「板」と断言してしまっている。
これはRue98日本語版のケースだが、国に限らず、マスコミに限らず、こうやって次第に歪められていく場合がある。
もっとも、当局の発表の間違いを叩いて批判することが主目的なら、こういう事はあまり関係はなく、「鉛の棺」と不安感を高める直接的な表現を使い、「低レベル」という表現がどこかに消えてしまっても気にしないのかもしれないが。
フランスのお葬式:パリ・南仏 コートダジュールの日記
フランス式お葬式について - 7月31日 - マダムケイコのフランス生活日記
葬祭研究所【世界のお葬式】フランス
メモ
正しく怖がりたいから調べてみる。
(追記)
自分の立ち位置を、書いておくべきかな。
自分の立ち位置は、柏崎は絶対反対!。原子力ムラを何とかしろ!。日本国内では次第に脱原発。どうせ10年20年30年かかる話だし、しばらくは完全廃止は社会経済的に難しい。さらに、日本だけでなく世界(先進国・新興国共に)的な流れでの現実的な対応が必要と考えている。
原理主義的な反原発運動とは距離を置いている。
自然と、いきすぎた反原発報道に異論を唱える記事となりがち・・・ (;;; ´Д`)
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