蛟竜号の、7000m級潜水試験に向けた改造と「失踪事件」
(半岛网より)
中国の7000m級有人深海潜水艇「蛟龙(蛟竜)」号を載せた支援母船「向陽紅09」は、台風3号(玛娃、Mawar)による荒天の影響を避けて、長江河口近くの投錨地に停泊していました。今日(6日)再出航し、11日頃にマリアナ海溝の潜水試験海域に到着する予定です。
その蛟竜号。
昨年の潜水試験の時には、報道記事で「中国の自主開発」「自主設計、自主開発」の有人深海潜水艇と盛んに書かれていた。
正しくは「自主設計・自主統合開発(自行设计、自主集成研制)」で、マニピュレータなど外国製の設備も多い。蛟竜号の第一副総設計師 崔维成(崔維成)によると、中国国産化率は58.6%。
(参照(当ブログ記事):【再掲】中国の有人潜水艇「蛟竜号」はどこまで自主開発なのか調べてみた)
今回出航する前に、崔维成は「蛟竜号の国産化率は60%(百分之六十)」と言っているので、中国国産部分はほとんど増えていないようだ。
"蛟龙号"再次入海挑战7000米极限 专家详解下潜过程(中国广播网)
蛟龙号百分之四十的设备是国际上著名的设备公司帮我们研制的。百分之六十是我们国内研制的。国产化达到了百分之六十。最核心的载人舱的制造,是一种国家整体制造工艺的能力。俄罗斯用手工焊的方法帮我们做了蛟龙号的载人舱,“蛟龙号”的技术成就是国际深海界共同努力的结果。
この中でさりげなく、ロシア製の耐圧殻など設備の4割は国際的に著名な会社の製品であり、蛟龙号の技術成果は国際的な協力の結果だと言っている。
2011年と2012年の、中国国内の雰囲気の違いを反映しているようで面白い。5000m潜水試験の時に起きた、中国高速鉄道の衝突脱線事故もターニングポイントの一つだったのかもしれない。
蛟竜号と向陽紅09には、7000m海試に向けていくつかの改造が行われている。
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蛟竜号の総設計師 徐芑南(徐キ南)によると、深海の水圧と低温環境下での性能と作業能力を上げるための改造を行ったそうだ。同時に、高精細ビデオシステムを改良し、16灯の水中ライトのレイアウトを調整することで照射領域を改善。映像信号の伝送速度を強化したことで、映像がよりくっきりと色彩豊かになった。
そして、蛟竜号に新たにGPSを搭載した。仮に潜水後に悪天候となっていても、支援母船「向陽紅09」は浮上位置を確認し速やかに回収することが出来るため、安全性が増したそうだ。
挑战7000米,中国"蛟龙"准备好了吗?(新华网)
徐芑南说,针对7000米级海试,“蛟龙”做了一系列的升级改造,以提升其在大水压和低温环境下的性能和作业能力。同时进一步完善高清视频系统,对头部16个水下灯进行重新布局,使得照射面积更加合理。此外,“蛟龙”号的视频信息传输能力也得到加强,图像更加清晰,色彩更加逼真。
“为了应对下潜结束返回海面时可能遇到的恶劣天气,‘蛟龙’号还加装了GPS定位装置,可以在恶劣海况下帮助母船以最快速度对潜水器进行定位,增加安全性。”徐芑南说。
中国メディアの日本語版の記事も、改良点やGPSの新装備については触れている。例によって(どこのマスコミでも同じだけど)、悪いイメージは抱かせない当たり障りのない書き方。
個人的にはツッコミどころ満載で面白い記事だが、普通は読み流してしまうだろう。(苦笑)
前の記事で少し触れたように、昨年の5000m潜水試験の時に、浮上した蛟竜号を悪天候で長時間見つけられなかった、いわゆる「失踪事件」が起こっている。
メインパイロット叶聪(葉聡)は簡単に触れているだけだが、実際はかなり大変な状況だったようだ。
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6月1日の江蘇省の地方紙・扬州晚报网の記事『“蛟龙号”三次海试历险记(“蛟竜号” 三度の潜水試験冒険記)』によると、これまでの1000m級潜水試験と3000m級潜水試験、そして5000m級潜水試験で「多くの困難と未知の危険」に遭っている。
技術試験なのだから問題点が出るのは当然だし、それを改善して安全性を高めていくのはどこでも同じだが、5000m級潜水試験の「失踪事件」とその後は、かなり大変な状態だったようだ。
第一次潜水試験の時、潜水後に天気が崩れてしまった。
恐らく、天気が長く崩れるので蛟竜号を浮上させたところ、気象変化が早く浮上時にはかなり荒れていたのだろう。
向陽紅09は浮上した蛟竜号を、長時間見つけることが出来なかったため、速やかな回収が出来ず、悪天候の中で回収しなければならなくなった。(この「失踪事件」を再び起こさない対策の一つとして、GPSが新装備された。)
荒れる海の上で、風と波が打ち付ける中をフロッグマンたちが蛟竜号にとりつき、海に転落することもありながらも、向陽紅09からの牽引ワイヤーをつなげ、着水揚収装置の吊り金具を取り付けている。
向陽紅09の近くまで牽引し、A型クレーンで海面から吊り上げる途中で、蛟竜号を大波が襲いサンプルを入れたバスケットを壊してしまった。
さらに、蛟竜号の船底の支え(原文は「底部支架」)が破損したため、緊急に溶接修理を行っている。
推測だが、蛟竜号を吊り上げ、後甲板に回収する最後の段階で、向陽紅09は船体の動揺を抑えきれず、吊り下げられたまま揺れる蛟竜号(25㌧)をどうもできなかったのだろう。
風雨と波浪がもっと激しかったら、重篤な損傷を与えていたかもしれない。
第四次潜水試験の後のニュース映像で、荒天の中を回収される蛟竜号が映っている。
(てっきり第四次潜水試験のときの映像だと思っていたけど、もしかするとその時の映像だったのかな?(不明)。)
(Screenshot [视频]“蛟龙”号第四次深潜 成功采集到锰结核(中国网络电视台)|1分50秒あたりから)
揺れまくってます。
主な改修箇所は、水中音響システムの全面的な更新、蛟竜号へのGPSを新しく装備、向陽紅09に8000mの大深度観測装備と水中アンテナを配備し、とにかく、潜水中の蛟竜号の位置を見失わないよう、多方面から確認出来るようにしている。
またA型フレームと着水揚収装置の補強も、荒天時など非常時の回収作業の安全性を高めるためではないだろうか。
日本の深海潜水艇支援母船「なつしま」と「よこすか」は、どちらも「しんかい2000」「しんかい6500」の支援母船として設計開発された。
一方、中国の支援母船「向陽紅09」は、「なつしま」よりも古い1978年に就役した海洋調査船で、船齢34歳。2006年に支援母船として改修された船で、もともと深海潜水艇の支援母船の用途に沿った設計はされてはいない。
昨年の5000m級潜水試験の成功の後に、中国の純国産の4500m級有人深海潜水艇の開発計画にゴーサインが出た。その中に、新しい支援母船の開発計画もあるようだ。
今年の7000m級潜水試験の結果如何によっては、加速するかもしれないし、失速する可能性もありそうだ。
どうなりますことやら。
めも
「失踪事件」と書いたのも、中国の新聞記事です。念のため。
「蛟龙号明日踏上圆梦之旅」(中国宁波网)
蛟龙号の改修箇所は、他にも生物サンプルの採集器の改良や、マニピュレータのツメ交換などいろいろあるけれども、話の流れの関係と、書くとさらに長文となるのでこのくらいで。
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