蛟竜号の、事故・トラブル時の緊急対処方法
(中国政府网より)
(图表:“蛟龙”号深海安全保障 新华社记者 高微 罗沙 编制)
中国の7000m級有人深海潜水艇「蛟龙(蛟竜)」号。
やはり、というか安全性を気にする書き込みを、日本国内だけでなく中国ネットでもちらほら見かける。
不安解消のためか、中国政府網はじめ中国メディアの記事で安全対策に関するものが出ていたので、今回はそれを少し。
蛟竜号では、事故やトラブルなど緊急時に浮上させるため複数の対処方法を用意している。
潜水艇では、バラスト(重り)とバラストタンク(海水注入タンク)を使って、浮力を調整して潜水・浮上をする。
緊急時には、基本はしんかい6500など他の深海潜水艇と同じで、各種装備を投棄し船体重量を軽くして浮力を得る。
まず、バラストを全量投棄。
蛟竜号には、バラストは両舷に大小2個ずつ設置されている。
(第二次潜水試験の時は、水深6200mで246kg(123kgx2)の一次バラストを投棄し、浮上時には580kgの二次バラストを投棄した。)(参照/cn)
次に、メイン・バッテリー箱(1.2t)を爆発プラグで切り離して、投棄。
バッテリーは、4系統積まれている。性能諸元でよく書かれているのは110V・800Ahのメイン・バッテリーで、その他に計器用バッテリーと予備バッテリー、非常用バッテリーがある。
(下に続きます・・・)
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マニピュレータを使って、採取したサンプル類を投棄。
さらにサンプル・バスケットやマニピュレータ自体も切り離すことが出来る。
トリム調整装置(480kg)も投棄することが出来るが、上のイラストや、中国メディアの記事ではほとんど触れられていない。トリム調整装置には水銀が使われているので、深海での水銀汚染の可能性を周知させたくないため、書かずに済ませたのではないだろうか。
これらの装備の投棄によって、最終的に約2トン分の浮力を得ることができる。
もし深海底の泥に埋まるなどして、これらの緊急対処方法でも浮上できない場合には、船の背中から9000mのケーブルが繋がっている緊急ブイを放出し救援を求める。(*1)
支援母船・向陽紅09は、海面に浮上した緊急ブイのストロボライトを発見できればすると、ブイを回収。
甲板のウィンチを使って引っ張る・・・らしい。
除压载铁外,所有可抛弃物总重量在2吨以上。此外,为了保障安全,潜水器还装有应急浮标及连接的9000米的细缆,这条细缆是为了应对潜水器陷入淤泥的情况,最终可让潜水器摆脱困境。
徐芑南:蛟龙号应急措施 5大可抛物保证上浮顺利(中国网)
泥から引っぱり出すつもりと思うけど・・・、ケーブル(9000米的细缆)はあっさり切れ・・・ないか?
日本では「しんかい2000」でこの方法が使われていた。
しかし、「しんかい6500」では実用的なサイズに収まらないため、ブイと係留ケーブルを海底から数百mだけ浮上させ、それを海上(支援母船・よこすか)から絡め取る方法が採用されている。この方法は海底に設置するトランスポンダーの回収で実績を積んでいるそうだ。
(参照:6,500m潜水調査船「しんかい6500」/支援母船「よこすか」システム誕生秘話)
蛟竜号の潜水試験の報道を追いかけていて、不安に感じるのは、昨年の5000m潜水試験「失踪事件」のような、運用経験の少なさからくる装備の不備や対処の失敗だ。
中国は、7000m級深海潜水艇を就航させるまで、水深600mの有人潜水艇での経験しかなかった。
後発組の利点は大きく、技術レベルでは長足の進歩を遂げたと言えるが、それは失敗経験を含めた積み重ねがされてこなかったことも意味する。
大深度のような極限環境では、わずかなミスでも大事故につながる危険性が大きくなる。
9000mの細ケーブルが使われるような状況が起きなければいいんだが・・・
(*1)上のイラストでは8km長ケーブルとなっているが、9kmの書き間違いだろう。
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