南鳥島沖の深海底のレアアース|資源価値と採掘方法
(wikimedia commons)
南鳥島沖の、日本の排他的経済水域(EEZ)の深海底の堆積物に、高濃度のレアアースが含まれることが確認された。
ハイテク製品に欠かせず、現在、中国が独占的に供給している、希少な金属「レアアース」が、日本の排他的経済水域にある南鳥島近くの海底に多く存在していることが、東京大学の調査で分かりました。 日本の経済水域でまとまった量のレアアースが確認されたのは初めてで、埋蔵量は国内の消費量の220年分余りに上るとみられています。
南鳥島海底に大量のレアアース(NHKニュース)(Googleキャッシュ)
今回の発表で注目されるのは、まず、ハイブリッド車のモーターに使われる「ジスプロシウム」や、液晶テレビに使われる「テルビウム」などが高い濃度で含まれていること。これらの重希土類元素は、現在は中国南部のイオン吸着型鉱床でしか生産されていないので、ほぼ100%を依存している。
そして、水深5600mという大深度であるということ。
この深海底のレアアース資源泥の採掘方法について、意外と触れられていないようなので少し。
レアアース資源泥は、今回発表と同じ東京大学の加藤泰浩教授の研究グループが、2011年7月に発表した、レアアースを高濃度で含有する深海底堆積物。海底火山等の熱水活動によって放出された物質が海水中のレアアースを吸着・濃縮して、堆積したものと考えられる。深度3,500 ~ 6,000 mの深海底に層状に広く分布する。
研究グループでは、レアアース資源泥は日本の主権がおよぶ排他的経済水域内でも存在している可能性が高いと考え、その発見を目標として研究を進めていた。
全く新しいタイプのレアアースの大鉱床を太平洋で発見(pdf)(東京大学)
(*)加藤泰浩教授の著書が、もうじき出版される予定です。
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今回、確認された南鳥島沖のEEZ内のレアアース資源泥の資源価値と採掘方法は、昨年の発表後の8月1日に文部科学省で行われた海洋鉱物委員会での、加藤教授への「レアアースを含む海底堆積物に関するヒアリング」の議事録と資料が参考になる。
ヒアリングでは、発見に至る簡単な経緯やNature Geoscience誌に全く書いていないことも含めて、分かりやすく説明している。科学コラムみたいで面白い。お奨め。(*1)
簡単に書くと、技術的に解決しなければならない部分もまだまだあるが、これから採掘方法を考えるという状態ではない。現在の原油・天然ガス採掘方法で採用できるものも多く、実現性は高いと感じられる。(その“あと少し”がとても大変なのは、よく分かっている)
加藤教授はヒアリングで、実証試験まで半年、基礎調査で3年、「最速で行くと、5年後くらいにはいけるのではないかと思っています」と言っている。
2011年のタヒチ沖のサンプルで資源価値が計算されている。
タヒチ沖(Site76)のレアアース資源泥を、4km2(2x2km)、海底下の地下10mまで掘った場合、総レアアース量は約36,000トン(酸化物換算)、ジスプロシウム量は約1,400トン(金属Dy)。
陸上のレアアース鉱山と違って、開発の障害となるトリウムやウランなど放射性物質をほとんど含まない。
南鳥島沖のサンプルの濃度は、平均1100ppm、最大で1700ppm。意外と、平均濃度は同程度だった。その理由は、生成過程にありそうだ。(本筋でないので後述→(*1))
1km2あたりで再計算(細かく計算しても仕方ないのでざっくりと計算)すると、レアアース量は約8300トンとなる。同じく、タヒチ沖(Site76)と同程度のDy含有量とすると、ジスプロシウム量(金属Dy)は約320トン。これは国内の年間消費量の4〜5割にあたる。
報道では、その海域のレアアース量は680万トンとあるので、海底下10mで均したとして約800km2、ざっくりと1000km2の範囲に分布しているのだろう。これは東京都の陸地面積の約半分にあたる。
全部掘る事を想定するのはナンセンスだが、4km2を掘っただけでも、年間消費量(2011年)をまかなうことが出来る(ジスプロは年間消費量の2倍)。
採掘は、石油・天然ガスの採掘で使われているFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)で想定されている。(*)Floating Production, Storage and Offloading system
FPSOは、採掘から生産までを行える洋上施設で、現在は海洋石油・ガス生産設備の6割以上を占める最もポピュラーな生産設備。
FPSOについては、三井海洋開発の「FPSO/ FSOとは」ページが詳しい。
大深度の海底の油井・ガス井では、固定式のプラットホームは使えない。タンカーと同じ船体を使ったFPSOだと、海が荒れた時に係留設備を残して避難できるし、防噴装置(BOP)を海底に設置するのではない頻繁に移動する採掘方法にも適しているだろう。
水深5600mの大深度から吸い上げる方法は、ライザーパイプに空気を送り込んで、泥に混ぜて浮力を与える、エアリフト方式が検討されている。
膨大な量の資源泥を処理しなければならないので、吸い上げ能力と処理能力が気になるところだ。
採掘システム構築のためのロードマップを見ると、実証試験までうまくいけば、そのまま一気に生産を進めることが可能かもしれない。(その“あと少し”がとても大変なのは、よく分かっている)
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コストについてもいろいろ計算してみたけれど、価格変動が大きいし、まとめるには情報不足。
詳しいことは7月20日に開催される、エネルギー・資源フロンティアセンター主催のシンポジウム「レアアースのすべてを語る ―海底レアアース泥の探査・開発から削減技術、製錬、リサイクルまで―」で明らかにされることだろう。
【シンポジウム:レアアースの全てを語る】(2012/7/20) - 最新情報(東京大学)
(*1)
なぜ南鳥島沖で、高濃度のレアアース資源泥が存在しているかというと、熱水活動の盛んだった白亜紀にレアアース資源泥が効率的に生成され、太平洋プレートが動いてきた結果だそうだ。
大陸や半島からでなくて良かった、と思ったというのは内緒の方向で(笑)
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