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2012年7月 3日 (火)

蛟竜号|中国の深海潜水艇と海洋軍事戦略

201207kou0102
新浪网より)

中国の7000m級有人深海潜水艇「蛟竜」号が、マリアナ海溝で水深7062mの潜水記録を作った。

日本国内メディアの記事をいくつか読むと、通信社の配信記事か中国メディアの記事の紹介ばかりで、中国の海洋資源の調査と開発については書かれている(まったく触れないものもある)が、金太郎飴状態。
幸いにも、毎日新聞社が「潜水技術の軍事転用」に触れていた。他人事な表現なのは残念だったが。

中国メディアによると、中国は今後、マリアナ海溝の最深部(水深約1万1000メートル)で活動が可能な有人潜水艇の開発を目指す。一方で、海底資源調査の活発化や潜水技術の軍事転用に対する懸念が周辺国や欧米諸国で強まる可能性もある。

中国:有人潜水調査船、7020メートルに到達(毎日新聞)

2009年の南シナ海での3000m級潜水試験の時のように、深海底に中国国旗を置くなどの話題性がなければ、紙面を割こうとしないのだろう。そのうち、保守色強いところや軍事色が強い雑誌が触れると思うけれども、日本語の記事や書き込みで、軍事転用を気にする人は(某巨大掲示板を含めても)意外と少ない。

中国は短期〜長期戦略目標を設定し、海洋技術開発をすすめ、「海洋大国」と「海洋強国」となることを目指している。(参照:cn

中国メディアで軍事の専門家がいろいろと言及していたので、中国の深海潜水艇とその技術の軍事的な側面を中心に、紹介をしてみたい。
(軍事には詳しくなので、変な素人表現になっている所もあると思います。ご容赦ください。)

海底資源の獲得を目指しているという話は、わざわざ書くまでもなく本気で狙ってきている事なので、特には触れていません。





中国は軍事・戦争に関して、戦闘力以外の非物理的手段を重視してきている。「三戦」と呼ばれる「輿論(世論)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、「軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる」との方針も掲げている。
(参照:平成23年版・防衛白書

海底資源の利用は、国連海洋法条約に基づいて設定された排他的経済水域(EEZ)や深海底鉱物資源の枠組みが決められているが、これまで、アメリカ合衆国は国連海洋法条約を批准していなかった。しかし中国の海洋進出が活発化したことに危機感を強め、批准手続きを進めている。早ければ今年中に批准するだろう。この方針転換には、中国の海洋戦略での「法律戦」に対抗する意図がうかがえる。


余談だが、中国は、現在ではEEZをあたかも領海のように拡大解釈をし、外国の軍艦が中国のEEZを通行する場合にも承認申請をするように求めている。・・・にも関わらず、日本のEEZや領海では我が物顔で、国際的に認められた特定海峡(3海里外)であるとして隊列を組んで通過していく。
南シナ海、中国政府の大暴論(ニューズウィーク日本版))

何だかなあ。

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閑話休題、

蛟竜号の関係者は、蛟竜号は科学研究目的だとよく発言をしている。
中国国防部も、蛟竜号(それと、同時期に打ち上げられた有人宇宙船「神舟9号」等の宇宙技術開発)は軍事目的では無いと繰り返しアピールしている。
「蛟竜号」それ自体は、中国海洋協会(COMRA)と国家海洋局が使う深海潜水艇だから、「蛟竜号は科学的調査が目的」とはっきり言うことは出来る。しかし研究開発された海洋技術の応用や、今後開発される予定の有人潜水艇や無人潜水艇についてはあまり言及はされない。

国防部の定例記者会見はいつも通りのやりとりで、
記者が「外国メディアが、軍事的な用途について推測してますが・・・」
と質問をすると、
国防部スポークスマンが「それはまったくのでたらめだ」(意訳)
と回答をする。何か、時代劇の台本を読んでいるような気分になってくる。

「自分たちは平和利用目的と言っているのに、外国が難癖をつけてきている」という、いつもの自己正当化をして世論を誘導する方法だろう。

中国の有人潜水艇「蛟竜号」は、深海科学研究と海洋環境保護に携わるために研究され、人間の海洋に対する理解と海洋の平和的開発と利用のために、プラスの役割を果たすだろう。

中国的“蛟龙号”载人潜水器是为了服务深海科学研究和海洋环境保护而研制的,它对于人类认识海洋,和平开发利用海洋,将发挥积极作用。

国防部:中国军队已经建立常态化战备巡逻机制(中国政府网)

正直な話、中国人をはじめとして、関連技術も含めて軍事用途に使われないとは誰も信じていないと思う。

実際にはどうかというと、各国の有人深海潜水艇がこれまで行ってきた作業は、民間・軍事にかかわらず遂行できるだけの能力を持ちつつあると見るべきだ。ただし長期間の運用が出来るかどうか、今後試されることになる。
今回の6回の7000m級潜水試験を一通り追いかけていたが、後半数回の潜水試験はとても安定した運用をしていた印象をもった。

南シナ海の水深3000m級の海盆でも充分に運用できるだろうし、東シナ海は楽勝だろう。

中国国産の4500m級有人深海潜水艇の開発計画も進んでいる。

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中国軍事科学院の杜文龙(杜文竜)研究員が、6月23日の湖北卫视(湖北衛星放送)の番組でインタビューに答えている。
その中で、深海潜水艇は天然ガスなどの海底資源の探査と開発に非常に重要であると強調するとともに、米国やロシアの深海潜水艇の軍事的な運用実例をあげて、同じように中国でも深海技術の軍事面への応用が可能であることに触れている。
(*)中国語のヒヤリングは苦手なので、字幕と映像を元にしています。

杜文龙:不排除蛟龙号深海技术用于军事
 (蛟竜号の深海技術を軍事に使う事を排除せず)
杜文龙:蛟龙号志在南海之外的深海地区
 (蛟竜号は南シナ海の深海を調査する)
杜文龙:蛟龙号比美国阿尔文技术更先进
 (蛟竜号は、米国のアルビン号の技術よりも進んでいる)
(動画:いずれも鳳凰视频)


また、香港の大公报紙の6月20日の記事『中国深海开发占据战略主动』(中国の深海開発の戦略)で、中国人民解放軍海軍の刘江平(劉江平)大佐はこう書いている。

西側メディアは、蛟竜号は“強大な軍事的な潜水能力”を持つと言う。実際のところ、蛟竜号の目的は主に科学研究である。ただし客観的には、蛟竜号の遠隔通信、電子的・機械的な先進技術は軍事でも使えるものだ。特に深海潜水艇の研究開発技術はそうである。蛟竜号の研究開発の成果は、祖国の広大な領海の防衛、特に水面下の安全を守る上で重要な貢献をするだろう。

有西方媒体认为,蛟龙号“具有强大的军事潜能”。其实,我国研制蛟龙号主要是用于科考目的,但客观上蛟龙号在通信遥控、电子、机械等方面的技术突破都可用于军事,尤其是用于深海潜艇的研制。蛟龙号的研制成果,可以说为保卫祖国的辽阔海疆,尤其是保卫水下安全方面作出了重要贡献。

中国深海开发占据战略主动(大公网)

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では、具体的にどのような軍事面の応用が考えられるだろうか?


香港の大公报紙の6月14日の記事は、

現在、中国は海洋の主権に関して未曾有の複雑な情勢と困難な任務に直面している。“龍(蛟竜)”は凄まじい勢いで進み、中国の科学技術レベルをめざましく発展させてきた。中国の海底資源の調査と開発レベルを高め、同時に海軍軍事技術も向上させている。人民解放軍海軍の海洋での三次元的作戦体制は完全となり、シーパワーはさらに力強く維持されることだろう。

现今,中国维护海权正面临前所未有的复杂形势和艰巨任务,“蛟龙”的,折射出中国科技水平的飞跃,既有助提升中国对海底资源的勘探开发水平,同时海底军事技术的提高,将使解放军的海洋立体作战体系更加完备,从而更好地维护海权。

港媒:蛟龙号深潜器可作军用 为潜艇绘制海图(腾讯网)

三次元的作戦体制が向上するということは、中国海軍の作戦能力全体が向上するということであり、将来的にはさらに空母を使った海上航空戦力も加わる可能性が高い。

続けて、蛟竜号で研究開発され実地検証された水中通信システムや自動定位システムは、海軍潜水艦への応用が可能であることと、高性能サイドスキャンソナーで調べられた精細な海底地形図は潜水艦の作戦遂行能力を高めるだろう、と書かれている。



台湾の「亚太防务(アジア太平洋防衛)」誌の郑继文(鄭継文)(*)は、深圳卫视(深セン衛星放送)の番組で、深海潜水艇と関連技術の軍事利用の危険性を詳しく述べている。
(*)軍事雑誌『全球防衛』誌の編集長。

201207kou0101

高速水声通信技术 采用声纳技术(高速水中通信技術 ソナー技術)
截获或剪断海底线缆 (海底通信ケーブルの切断あるいは傍受)
回收海床上的外国武器 (海底の外国製兵器の回収)
维修 救援海军潜艇 (海軍潜水艦の救援と補修)
悬停定位能力 (慣性航行能力?)

蛟龙号可回收海床上的外国武器 救援海军潜艇
 (蛟竜号は、海底の外国の兵器の回収や、海軍潜水艦の救援が出来る)
郑继文:蛟龙号7000米海试凸显中国科技成就
 (蛟竜号の7000m潜水試験で、中国の科学技術の成果は明らかになった)
专家:中国核潜艇用蛟龙技术或突破500米深潜
 (蛟竜号の技術を用いた中国の核原潜は水深500mを越える)
专家:蛟龙号有望提升中国核潜艇通讯系统
 (蛟竜号は、中国の核原潜の通信系統をアップグレードさせる)
专家:蛟龙号有助于中国核潜艇突破岛链
 (蛟竜号は、中国の核原潜の列島線の突破を助ける)
专家:美军自主式无人潜水器或将统治深海
 (米国の自律無人潜水艇は、いずれ深海を統治するだろう)
(動画:いずれも鳳凰视频)


全部を細かく書くと長くなるので、特に重要と感じたものをいくつか書いてみよう。

人民解放軍海軍は、潜水艦部隊の作戦能力を高めるために海底地形図の作成を進めている。
深海潜水艇(有人/無人)の高性能サイドスキャンソナーを使って作成された精細な海底地形図によって、潜水艦の隠密性が高くなる。待ち伏せ作戦や浸透作戦が行いやすく、潜水艦部隊の作戦能力が向上するだろう。
これは、対潜水艦監視網が強固になることも意味している。中国の接近阻止戦略(*)に大きく関わってくる。(*)接近阻止・領域拒否(A2AD)。

6月25日に米国の原子力潜水艦がフィリピンのスービック港に入港した。入港前に南シナ海の調査も行ったとみられるが、明らかにはしていない。(参照
中国海軍としては、米国海軍の行動を事前に牽制あるいは阻止したかったことだろう。


蛟竜号で使われ、性能の検証が行われた中国国産の技術として、水中通信システム、ソナーや定位システム、自動航行システムが特に注目されている。

今年、中国の最新の原子力潜水艦に水中通信上の問題があるという報道があった。

技術に問題なのは通信能力の不足だ。米国防総省が2年前に発表した報告書によると、人民解放軍の潜水艦は、海上に浮かび上がるか、通信ブイを水面に出さなければ外部と通信できない。これではすぐに敵の攻撃を受けてしまう。

中国が開発中の新型原子力潜水艦には「技術・政治的に深刻な問題」—SP紙(レコードチャイナ)

これが事実かどうかは分からないが、蛟竜号で使われたデジタル水中通信システムは、潜水艦の通信システムの性能アップや問題の解決に寄与するだろう。

ソナーと定位システム、自動航行システムは、そのまま遠隔操作無人探査機(ROV)や自律型無人潜水機(AUV)に応用され、性能の向上が見込まれる。
郑继文は、米国海軍が研究している無人潜航艇について触れ、中国海軍も将来的に軍用無人潜航艇を配備する可能性を示唆している。

中国では、蛟竜号の研究開発が行われるまでは、水深600m(6,000mじゃないよ)までの有人潜水艇の運用経験しかなかった。海軍の深海救難艇(DSRV)の性能も同程度と思われる。当然、米国海軍や海上自衛隊のDSRVの潜水・救助能力を目標にした、新たなDSRVを開発するだろう。



いつか国防部のスポークスマンが記者会見で聞かれたら、こう答えるんじゃないだろうか。

「蛟竜号は、科学調査を目的として研究開発されたものだ。」
「その後に建造されたものは、蛟竜号とは関係のない別の潜水艇なので、一切、嘘は言っていない。」

「仮に、蛟竜号と似たシステムが載っていたとしても、我が国が自主開発をした技術を国土と人民の防衛に使って何が悪いというのか。アメリカやロシアもやってきたことではないか。」

それはまあ、その通りなんですけどね。

過去からの教訓:中国政府の公式発表は、頭から信じ込んではいけない。



メモ
米ソ冷戦の頃から、いろいろと言われてきただろうこと、再び。

蛟竜号の潜水試験が行われている間に公開した方が良かったかもしれないけど、事故があったら後味悪いので潜水試験が終わるまで待ってみた。
むしろ、成功に気をよくしたからか、参照できる記事が増えた。

日本語訳が微妙なのは勉強中の身なので、ご勘弁ください。噛み砕いて書こうとしている・・・つもりです(苦笑)




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