台湾、蘭嶼の放射性廃棄物貯蔵施設、一連のニュースまとめ。| TBS 報道特集(2012/11/24 )『台湾・先住民の島に放射性廃棄物 見過ごされた危機』
背包客棧より
台湾の蘭嶼にある放射性廃棄物の貯蔵施設。11月24日にTBS『報道特集』の放送で、はじめて知った方もおられるかもしれません。
ここ数ヶ月の報道を絡めて、軽くまとめてみました。
台湾本島の南東沖80kmにある蘭嶼。
現地読みで "ランユー"、日本語で "らんしょ"ですが、ニュースなどでは "蘭嶼島" と書かれます(*1)
台湾の原住民族のタオ族が4000人ほど住んでいます。(冒頭の写真はタオ族伝統の船)
この島の南の端に、台湾の原発作業で出る低レベル放射性廃棄物の貯蔵施設があります。
うちのブログでは、8月末に桜美林大学の中生教授らによる現地調査が行われた事とその結果、津波などで日本近海を含む広範囲が放射能汚染される危険性がある事の記事を、いくつか書きました。
(例:台湾、蘭嶼(らんしょ)島の放射性廃棄物貯蔵施設)
その後も関連ニュースがあり、ツイッターで逐次書いていたのですが、先週の11月24日のTBSの番組『報道特集』で、この蘭嶼の核施設と問題点などが放送されたので、ブログにまとめてみました。
近頃のニュースを中心にまとめたので、建設の経緯や反対運動などには触れていません。詳しくはwikipediaや、今回の『報道特集』関連記事など、ご自身で調べてみてください。
放射性廃棄物貯蔵施設(蘭嶼貯存場)は、島の南の端にあります。
高い放射線測定値が検出された「朗島」地区は、島の北の端です(詳しい測定場所は、後に述べる報告書の地図に載っています)。
まず、11月24日のTBS報道特集『台湾・先住民の島に放射性廃棄物 見過ごされた危機』の番組動画。YouTubeから。
台湾 蘭嶼島:先住民の島に放射性廃棄物 (1) - YouTube
台湾 蘭嶼島:先住民の島に放射性廃棄物 (2) - YouTube
"みんな楽しくHappy♡がいい♪"さんが、内容の文字起こしをしておられます。スナップショット画像も交えた、丁寧な造りです。
台湾・先住民の島に放射性廃棄物 見過ごされた危機 台湾の孤島で11/24報道特集(動画・内容書き出し)(11/25)
文字書き起こした文章を、番組音声と付き合わせてチェックしたところ、特に間違いは無かった事を確認しました(11/26 07:00現在)
Togetterにて、視聴者のツイートがまとめられています。(*2)
ツイート一覧の後に載せられている関連情報が詳しく、参考になります。
報道特集 台湾・先住民の島に放射性廃棄物 見過ごされた危機 - Togetter
台湾PTSより
これまでの報道では触れられなかった部分も多く、一見の価値有りです。
例えば、8月末の調査では、蘭嶼北部の"朗島"地区の小学校などで高い放射線測定値が出ました。
11月10日の台湾電力と台湾と日本の研究者の合同調査でも、"日本研究者の測定値"でだけ、朗島診療所の壁で高い値が出ていた事が報道されましたが、『報道特集』から、電柱を地上1.5mくらいで測定しても高い値が出ていた事が分かりました。
中生教授など日本の研究者は、建材のコンクリ原料の砂や石が汚染されている可能性や、放射性ラジウムの可能性(世田谷区の民家で発見された例)を指摘しています。
一方、台湾行政院の原子力エネルギー委員会(原能委|原子能委員會)(以下、原エネ委)(*3)は、中出教授らが持ち込んだ測定装置が古く、高い値は、携帯電話の基地局の電磁波によるエラーだと否定しています。
行政院・原エネ委による、台日共同調査の結果。
訊息公告 台日三方會同偵測蘭嶼地區的環境輻射,已排除蘭嶼貯存場造成環境污染的疑慮(行政院原子能委員會|11/11)
測定作業の写真、地図と測定値一覧のファイルが、このページの下にリンクされています。
蘭嶼・放射性廃棄物貯蔵施設
(蘭嶼鄉-台電核廢貯存場より)
・
蘭嶼の放射性廃棄物貯蔵施設は、放射線の測定値の問題だけでなく、津波など自然災害が起こることによって、放射性廃棄物が容易に海に漏出し、蘭嶼近海のみならず黒潮にのって日本近海も汚染する危険性が指摘されています。
中生教授が岩波書店の『世界』に寄稿しています。(無料公開)
『蘭嶼島 津波の島に蓄積される核廃棄物』 中生勝美 (桜美林大学)
「世界」2011年1月号・特集「原子力復興という危険な夢」(岩波書店)
『報道特集』では、8月末に蘭嶼を直撃した台風14号(天秤)によって、その貯蔵施設の防波堤と同じ構造の港の防波堤が崩れている様子が映っていました。
また、貯蔵施設の裏手が崖になっているので、落石や土砂崩れで貯蔵施設が大きなダメージを受ける可能性を指摘しています。
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・
蘭嶼の住民の健康被害も、大きな問題です。
以前から、住民の間に肺がん、甲状腺がん、口腔がんなどが多いことが知られ、貯蔵施設のいいかげんな管理体制が指摘されてきました。
『報道特集』では触れていませんが、原エネ委も台湾電力の管理体制の不備を認識しており、ドラム缶の腐食原因などと合わせて今年3月に報告書が作成されました。(参照:tw)
腐食したドラム缶を新しいドラム缶に詰め替える作業を撮影した映像から、作業員は防護服を着けずに作業をし、付着した鉄屑(放射性廃棄物)を保管庫の外の道路で払い落とし、施設外の汚染を起こしていた、等が確認されています。(参照:tw)
この台湾メディアの記事で登場している、台湾の立法委員(国会議員に相当)の鄭麗君らが、施設の安全管理体制と台電と原能委の対応について追求をしています。
台湾、行政院原子能委員會・放射性物料管理局による報告書。
『蘭嶼貯存場檢整重裝作業之安全管制與調查報告 101年3月26日』(pdf)
(*)民国紀元。西暦では2012年3月26日。
貯蔵施設のずさんな管理体制から、腐っているのは放射性廃棄物を入れたドラム缶だけではなく、台湾電力や原エネ委の体質ではないかと感じられてきます。
もし大災害があり津波が起こった場合、施設は大きく損壊し、放射能廃棄物が流れ出すことが心配されます。詳しくは、前述した中出教授の論文を参照ください。
その時は、放射性物質は黒潮にのって流され、まず、沖縄から九州の海が汚染されたり、風評被害で沖縄の水産業や観光業は大打撃を受けることでしょう。
放射線の測定値や住民被害の話も重要な問題ですが、私は、この部分も特に心配しています。
蘭嶼北部の朗島地区の高い放射線の測定値は、個人的には(特に根拠がある解釈ではありません)、建材の汚染が原因ではないかと考えています。
蘭嶼の施設に放射性廃棄物が貯蔵されていることが分かった後、蘭嶼の地域住民への対応として朗島地区に診療所や小学校、電柱などインフラを整えたのではないでしょうか(未確認)。そのコンクリの原材料の砂や石が放射能汚染されていたのかもしれません。
なんにせよ、まだ現在進行形の話です。
今後の、台湾の原子能委員會と台湾電力の対応、鄭麗君・立法委員や台湾の研究者、そして中生教授らの今後の活動が注目されます。
『東日本大震災と知の役割』第III部・第14章
『低レベル放射性物質と東シナ海の津波:台湾離島の核廃棄物貯蔵場』中生勝美 著
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現在進行形の話なので、8月末からのタイムラインを簡単にまとめておきます。
8月下旬:
台風14号("天秤"台風)が蘭嶼を直撃し、甚大な被害を与えた。
台湾電力は、この台風被害による施設からの放射能漏洩はないと発表。(参照)
ーーー
8月31日~9月あたま:
桜美林大学の中生勝美教授、首都大学東京の加藤洋准教授らによる放射線の測定。高い値が測定された。
蘭嶼土壤 驚傳輻射超標(蘋果日報|9/4)
ーーー
9月27日:同調査の報告会(東京都内)
台湾の島、高い放射線量 原発の廃棄物施設影響か 桜美林大、首都大学東京、琉球大調査(47NEWS|9/28)
台湾、蘭嶼(らんしょ)島の放射性廃棄物貯蔵施設(拙文)
ーーー
11月8日:
立法院教育委員会の原能委の予算審査会で、立法委員の鄭麗君らが、昨年の作業映像をもとに貯蔵施設のずさんな管理体制を糾弾。
蘭嶼核廢檢整未密封 原能會報告證實疏失(自由電子報|11/9)(写真)
蘭嶼核廢料檢整 原能會查有缺失(聯合新聞網|11/9)(写真)
ーーー
11月10~11日:
台湾電力、台湾の研究者、日本の研究者が合同で、蘭嶼の貯蔵施設や朗島地区などの放射線測定。
11月11日:
台湾の原エネ委は、環境汚染の疑惑は晴れたと発表。
訊息公告 台日三方會同偵測蘭嶼地區的環境輻射,已排除蘭嶼貯存場造成環境污染的疑慮(行政院原子能委員會|11/11)(写真・地図・測定値)
〜〜〜
合同調査終了の後、首都大学東京の加藤洋准教授が、スクーターに乗って空港に向かう途中で交通事故。骨折。(参照)
台湾本島への緊急搬送についての原エネ委の対応に、中生教授らが不快感。
台湾人ではないので費用は自腹とか、対応がひどかったらしい。
原エネ委は、あわてて医療費等を負担すると発表。日本の学者が中立性を保つため、交通費・宿泊費等を自費にすると言ったのでそれを尊重したと、まあ、泥縄な言い訳。(参照:tw)
ーーー
11月20日:
中生教授、加藤准教授らが、台湾の台北で記者会見。
台湾・原エネ庁が、高い放射線量が出た結果を隠蔽したのではないかという不安が広がる。
高い放射線量と日本調査団 台湾の廃棄物貯蔵の島で(MSN産経ニュース|11/20)
ニュース動画
20121120 公視晚間新聞 日學者稱:蘭嶼部分地區輻射值高(YouTube)
ーーー
11月21日:
台湾・原エネ会は、高い放射線量は日本の学者の「測定ミス」と否定。
携帯電話の基地局の電磁波の影響を受けた可能性を指摘。
中生教授らが使っていたのは、米国製「SamRAE 940」。
外交ルートを通じて、中生教授らに安易な批判を慎むよう日本に要求する、と不快感を示した。
蘭嶼の放射線問題 原エネ庁:日本の学者、測定ミス(中央社日文新聞|11/21)
輻射爭議 原能會︰將請日本政府約束2學者(自由電子報|11/21)
台湾の立法委員(国会議員)が「知識人への脅迫行為」と言うなど、波紋が広がっている。
蘭嶼放射線問題 原エネ庁の「日本学者批判」で波紋(中央社日文新聞|11/22)
ーーー
11月24日:
TBS報道特集 『台湾・先住民の島に放射性廃棄物 見過ごされた危機』、放送。
台湾、蘭嶼にある放射性廃棄物の貯蔵施設の危険性と、万が一の時の日本への影響の可能性が、日本でも広く知られることとなった、・・・はず。←いまここ
(*1)蘭嶼は英語では "Orchid Island"なので、蘭嶼島を英訳直訳すると、"'Orchid Island' Island"となるのですが、それは余談(笑)
(*2)私は、放映当日は見られなかったので、このTogetterには出てきていません...orz
(*3)ツイッターでは"原能委"と書いていますが、この記事では"原エネ委"と書きました。
メモ
『報道特集』の特集が放映され注目する人が増えたと思いますので、この後のタイムラインはまとめないと思います。気分次第ですが。
ひとつひとつのニュースを、その都度、ブログ記事にした方がいいのかなとも考えなくもないですが、それも気分次第。
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