『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』読了 マグロは時速80kmでは泳がない
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「マグロの泳ぐ速度は時速80km」という説は実は間違っている、ということは知られるようになった(はず)。
昔の実験結果やよく知られた仮説が、より詳しく調べてみたら実は間違っていたというのはよくある話で、マグロに小型のデジタル記録装置を取り付けて調べたところ、平均の泳ぐ速度は7〜8km/h以下だそうだ。魚類が、緊急時など、精一杯泳いだとしても巡航速度の3~4倍しか出ないのでせいぜい30km/h。80km/hには遠く及ばない。
第5回 マグロは時速80キロで泳がない!?(ナショナル ジオグラフィック)
「マグロは時速80kmで泳ぐ」が定説()だからと鵜呑みにしたのか、こんな解説を書いているサイトもあります。(公益財団法人のサイトなので載せます)
マグロは速いだけではなく、長く泳ぐことでも知られています。沖縄や台湾の近くの海で生まれたマグロは、黒潮に乗って太平洋を北へ向かい、アラスカ、アメリカ西海岸をまわってメキシコへ行き、また、日本の近くへもどってきます。このあいだ24時間休むことなく、時速80kmぐらいで泳ぐことができるのです。
海の生物のなるほど 「魚の泳ぐ速さ」(公益財団法人 日本海事広報協会)
これだと、時速80kmぐらいで24時間休むことなく泳いでいるようなイメージされるんじゃない?(苦笑)
このように、動物にデータロガー(記録装置)を取り付けて、行動や環境情報を記録して生態を解析する手法をバイオロギングといいます。
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それは兎も角、この「マグロの泳ぐ速度は時速80km」が、いつ頃、誰によって調べられた結果なのか本書に載っていました。1964年にNature誌に載った短い論文とロシアの論文(原題不明)。
Measurements of Swimming Speeds of Yellowfin Tuna and Wahoo
(キハダマグロとカマスサワラの遊泳速度の測定)
VLADIMIR WALTERS & HARRY L. FIERSTINE
*1 Department of Zoology, University of California, Los Angeles.
Nature 202, 208-209 (11 April 1964)
さっそく元ネタを読んでみました。わずか2ページの小論文。
コスタリカ沖でマグロを釣り、釣り針に引っかかった後は自由に泳がせて、釣り糸が繰り出される速さを計っています。釣り糸には鉄粉でマークを付けておいて、磁気測定装置(magnetic pickup)で測定したそうです。
(キハダマグロの1サンプルのグラフ。抜粋)
釣り針に引っかかった直後の5秒で最高値を出し、10〜20秒の間に3度の高い値を出している。だいたい20~35km/hとなった後に、10~20km/hとなり徐々に数値が落ちている。
20~35km/hは、精一杯泳いだときの速度とも合致しますね。
20~30km/hで泳いでいる間も2回ほど急に跳ね上がっているし、暴れたときに尾鰭で釣り糸をひっかけるなどノイズが入ったのかな?
論文では、数値の大きな変化はマグロの泳ぐ方向が変わったためだろうと解釈しています。
検証するには、釣り上げられる前のマグロにデータロガーを仕掛けておいて、そのマグロを釣って調べるってのが一番手っ取り早いのでしょうが、ちょっと大変そうです。(誰かやっていないのかな?)
現在のバイオロギングでは、いわゆる「火事場の馬鹿力」を出した状態のデータは比較的少ないでしょうから、今後の更なる研究が期待されます。
本書は、
「渡る ー ペンギンが解き明かした回遊の謎」
「泳ぐ ー 遊泳の技巧はサメに習う」
「測る ー 先駆者が磨いた計測の技」
「潜る ー 潜水の極意はアザラシが知っていた」
「飛ぶ ー アホウドリが語る飛翔の真実」
の各章に分けられています。
「飛ぶ ー アホウドリが語る飛翔の真実」もお薦め。
「鳥の翼の断面はそもそも流線型をしていない」
はばたき飛行を航空力学で解釈するのは正しくない。鳥と飛行機はまったく別の原理で飛行している。
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