インフルエンザの流行が例年より早く始まっています。
薬局の店頭には、マスクや消毒薬だけでなく、大幸薬品『クレベリン・ゲル』、大木製薬『ウイルオフ』など二酸化塩素を使った製品が、売り場を拡げて売られています。
この二酸化塩素ガスを使った除菌をうたった製品について、うちのブログではけっこう前から(2010年から)折りに触れて記事にし、かなりのアクセスをしていただいています。ありがとうございます。(記事末尾に、特にアクセス数の多い記事へのリンクを載せました)
ここ数年で、状況がいろいろと変わってきました。
今年3月、消費者庁から、二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ(以下、「空間除菌グッズ」)販売業者17社に対して、景品表示法に基づく措置命令が行われました。
その後、何がどう変わったのか、変わってきたのか簡単にメモ。
家庭用として売られている製品について。
まず、一般向けに売られている、二酸化塩素を利用した空間除菌グッズは「雑貨」です。これ重要。
メモ
タイトルに、大幸薬品『クレベリンゲル』と大木製薬『ウイルオフ』の製品名を載せました。後述する、二酸化塩素工業会の正会員8社(記事公開時点)の上位2つの製造販売元であり、二酸化塩素ガスを使った空間除菌グッズの例として分かりやすいと考えたものです。
まず、二酸化塩素を利用した空間除菌グッズは「雑貨」です。これ重要。
「医薬品でも医薬部外品でもない「雑貨」として分類されるものなので、製造者や販売者の知識と判断力と、モラル次第でしょう。」
空間除菌グッズには大きく分けて、室内で使う「据え置くタイプ」と「首から下げるタイプ」があります。
(業務用には無人の、室内の燻蒸・消毒を目的とする製品や、車内の消臭等を目的とする製品もあります。)
国民生活センターが、2010年と2013年に調査を行っています。
うち「首から下げるタイプ」の製品の中には「中等度の刺激性」を示す製品があると発表されています。また、“次亜塩素酸ナトリウム”を含むと表示のある『ウイルスプロテクター』は消費者庁からただちに使用を中止するよう呼び掛けがあり(塩素ガスが発生)、輸入販売事業者のERA JAPANによって自主回収されました。
冒頭で書いた、今回(2014年3月)の消費者庁からの措置命令の後、二酸化塩素工業会が、室内濃度指針値と広告自主基準を発表しています。
(二酸化塩素工業会は、国民生活センターによる発表(2010年)の後に発足した業界団体。)
室内濃度指針値(日本二酸化塩素工業会の自主基準)は0.01ppmです。
この指針値は、当工業会に加盟する各社が製品を製造販売する際の濃度の目安としてヒトがその濃度の空気 を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を示したものである。
室内濃度指針値解説書 | 日本二酸化塩素工業会
ここで注意をしなければならないのは、これは二酸化塩素工業会とその会員企業による自主基準であることです。
同工業会の会員でない事業者が製造・輸入・販売している空間除菌グッズはたくさんあります。それらの製品が同工業会の自主規制に沿っている保障はありません。
室内濃度指針値(日本二酸化塩素工業会の自主基準)とあるので、「据え置くタイプ」「首から下げるタイプ」など使用環境はあまり考慮していない指針と感じられます。
しかし、「首から下げるタイプ」の製品の中には、ごく間近(1cm)で“0.55ppm”と極めて高濃度、上方30cm(1時間後)で0.02ppmという分析結果を示した試験報告書がありました(当時。現在は報告書を載せていた販売者のサイト全体が削除されている)。
二酸化塩素を使った「見えないマスク『ウイルスブロッカー』」の資料を読んでみた: メモノメモ(2012/2/21)
二酸化塩素工業会の会員事業者の中にも、一般向けに「首から下げるタイプ」を販売しているところがあります。二酸化塩素ガスを吸入する状況に合わせて、「首から下げるタイプ」の二酸化塩素ガス濃度が、室内濃度指針値(0.01ppm)に対してどのくらいになるか調べてほしいものです。
二酸化塩素工業会_指針値について | 日本二酸化塩素工業会
室内濃度指針値解説書 | 日本二酸化塩素工業会
二酸化塩素の自主運営基準設定のための評価について | 日本二酸化塩素工業会
室内濃度指針値の補足に「二酸化塩素ガスの発生が定常状態に達した際のガス濃度を示すもので、発生(開封)直後の二酸化塩素ガス濃度を規定するものではない。」と、少しぼかした表現で書かれています。発生(開封)直後の濃度水準等については別途規定するのだそうです。
先日発売された、晋遊舎の月刊誌「MONOQLO」2015年1月号で、「2014年ヒット商品辛口総まくり!」という特集に、大幸薬品の『クレベリンゲル』が取り上げられていました。
雑誌が独自に濃度の測定を行った結果、開封2日目の濃度は“0.00ppm”、開封13日目の濃度は “0.02ppm” で、ある程度の時間がたって二酸化塩素ガスの発生が安定したそうです。(一般財団法人 予防環境協会・室内空間研究所による分析)
注)この測定は容器の蓋のごく近くで行っている(記事に写真あり)ので、実際の使用環境とは意味が違います。
2010年の国民生活センターの「据え置くタイプ」の調査でも、性能にばらつきがあると発表され、他社製品(当時)の中には放散速度が大きくなるものもありました。開封後数日は安定しないと考えるべきでしょう。
クレベリン ゲルとその濃度(その2) 国民生活センター「二酸化塩素による除菌をうたった商品」: メモノメモ
2014年7月11日、二酸化塩素工業会が、二酸化塩素製品の広告自主基準(ガス製品)を発表しました。
二酸化塩素ガスを発生する除菌又は消臭を目的として使用される製品を対象としています。
二酸化塩素製品の広告自主基準(ガス製品) | 日本二酸化塩素工業会
表示方法に係わる自主基準の作成について | 日本二酸化塩素工業会
見出しだけを書き出してみます。
(1) 医薬品等であると消費者に誤認を与える可能性のある、効能・効果及び性能を標榜するような以下の表現はしてはならない。
(2) 商品の性能、品質、規格その他の内容について、合理的根拠に基づかない表示や著しく優良であると誤認を与える表示を行ってはならない。これを防止するため、以下のルールを定める。
(3) 虚偽誇大もしくは誤解を招く恐れのある表示をしてはならない。
(4) 性能又は安全性を保証する表現の禁止
(5) 製造方法について、実際の製造方法と異なる表現又は事実に反する認識を与えるおそれのある表現をしてはいけない。
(6) 比較広告を行う場合は、客観的、科学的事実に基づく根拠に基づき景品表示法や不正競争防止法等の関連法規に従う。
(7) 不快又は不安恐怖の感じを与えるおそれのある表現を用いた広告は行わないものとする。
見出しの中の「以下の表現」「以下のルール」等の部分は長いので、二酸化塩素工業会のウェブサイトのpdf資料を読んでみてください。けっこう面白いです。
特に(3)の、虚偽誇大もしくは誤解を招く恐れのある表示の例。
1 「万能」、「万全」、「なんでも」、「どんな」、「あらゆる」等の、用途又は効果が万能万全であることを意味する用語は、断定的に使用することはできない。
2 「完全」、「1 0 0 パーセント」、「絶対」、「根こそぎ」、「皆無」等の、全く欠けることがないことを意味する用語は、断定的に使用することはできない。
3 「安全」、「安心」、「無害」、「無臭」、「無公害」、「全く心配がない」等の、安全性を強調する用語は、断定的に使用することはできない。
4に続く(以下、省略)
こんな表現を、店頭やネットショップの広告で見かけたらご用心。
繰り返しますが、これは二酸化塩素工業会による自主基準です。
同工業会の会員でない事業者が製造・輸入・販売している空間除菌グッズはたくさんあります。
業界団体の自主規制をどこまで信頼するかは見る人それぞれでしょう。会員会社でない事業者の製品をどう評価するのかも人それぞれ。
また、この程度の当たり前の事すら行わない販売業者もいる・・・、多分たくさんいるでしょう・・・。それらをどう評価するのかも人それぞれ。
製品の購入を検討するとき、購入するときの、考える材料のひとつにしてみてください。
工業会会員 | 日本二酸化塩素工業会
正会員:
大幸薬品株式会社、大木製薬株式会社、株式会社バイオット、株式会社プライス、レッドハート株式会社、ダイソー株式会社(注:大阪曹達。100均じゃないよ)、日本カーリット株式会社、株式会社リアライズ
賛助会員:
株式会社イスト、株式会社エスエヌシー、株式会社トルネックス、株式会社グローバル・メディア・プラネッツ、株式会社中京医薬品、新光株式会社、CKKインターナショナル、国際衛生株式会社、北九州空調株式会社、株式会社エムズトラスティー
(記事公開時点)
うちでは自宅に「据え置くタイプ」の製品を使っています。
部屋等の消臭とトイレのカビ対策が主な目的で、もしインフルエンザの予防に役立ったのならラッキー♪という感じで。
インフルエンザの予防は、毎年、手洗いや消毒、健康管理など多方面から対策してるんだし、空間除菌グッズのおかげで予防できたと断言できるわけはありません。
感染症の予防は、本来、多方面から行うものです。
「首から下げるタイプ」の製品は、使いたいとも、友達に奨めたいとも思いません。
二酸化塩素ガスを使った“空間除菌”という概念は、世界的に感染症の不安が拡がっている現代、とても面白いと思っているのですよ。だから、手間暇かけて調べて、こんな記事を書いている次第。
でも、安全性や毒性、危険性を気にされる人が多いし、利用者は適切な使い方など注意しなければなりません。
重要なのは、二酸化塩素ガスの濃度とその濃度のコントロールであり、空間除菌グッズの使用環境での効果の評価と、その安全性・危険性の研究がもっと行われる事だと考えています。
行政、業界団体や製造者・販売者、医者や研究者の方々には、引き続き、空間除菌グッズのガス濃度でどれほどの効果があるのか、使い方でどう変わるか、効果的な使い方はどうか、低濃度・長期間暴露による安全性・危険性はどうか、調査、研究を期待したいものです。
クレベリン ゲルとその濃度(その2) 国民生活センター「二酸化塩素による除菌をうたった商品」: メモノメモ(2011/1/22)
クレベリンゲルのインフルエンザに対する、陸上自衛隊での検証結果: メモノメモ(2011/11/29)
二酸化塩素を使った「見えないマスク『ウイルスブロッカー』」の資料を読んでみた: メモノメモ(2012/2/21)
「二酸化塩素による除菌をうたった商品(身につけるタイプ)」について調べてみた。安全性や使う時の注意など。: メモノメモ(2013/1/31)
二酸化塩素による空間除菌・身につける製品のメーカーの対応、安全性の説明をまとめてみた: メモノメモ(2013/2/20)
「二酸化塩素を使った、首から下げるタイプの除菌用品」3製品で「中等度の刺激性」、化学やけどなど。国民生活センター発表。: メモノメモ(2013/5/1)
二酸化塩素を使った空間除菌グッズ 消費者庁が景品表示法に基づき措置命令: メモノメモ(2014/3/28)
そのほかいろいろ
タグ:メモノメモ: 時事|二酸化塩素ガス
最初は“時事ネタ”だと思ってたのに、もうすぐ5年目とか・・・(苦笑)